もう二度と、僕はこの樹から離れない。
この櫻の樹の下には、『・・』が眠っているから…。
その肉を喰らい。
その血を啜り。
櫻花はこんなにも美しい。
薄色の花弁に赫い焔を刷いて。
この櫻を君が好きだと言ったから。だから僕もこの樹を好きだ。
君と共に、この樹を育てていこう。
春も、夏も、秋も、冬も。
朝も、昼も、夜も。
僕等はずっと、この樹の下に居る。いつも二人一緒に。
例え何が起ころうと。
例え君が『・・・』であったとしても。
僕はずっと君の傍に居る。僕の生命が尽きる、その日まで…。
時々、僕は夢を見る。
君の夢。僕を捨てて去ろうとする君の夢。
僕は泣きながら君を引き止める。
「僕をおいていかないで。」
「独りにしないで。」
君の唇が開き、その一言を紡ぐ。
『・・・・・。』
君の言葉は何故か、僕の耳には届かない。
それなのに、僕は悲しくて堪らない。涙が溢れて止まらない。
目覚めても尚、僕は涙を流し続けている。
君の手を、繊細で冷たいその指先を、この手に探り当てるまで。
そうして君の手を握り締めて。漸く僕は安心する。
君は此処に居る。僕の傍に。
この櫻の樹の下に、一緒に居てくれるから。
君を失いたくない。君を何処へも行かせたくないんだ。
僕の傍に、永遠に居て欲しい。傍に居てさえくれるなら。
例え君が『・・・』であったとしても。
僕はそれで構わない。
君さえ此処に居てくれるなら。
時々、抜け落ちた言葉達に苛まれる。何か大切な事を忘れている気がして。
僕は君の手を探る。
氷のように冷え切った細い指先。その確かな感触に安堵する僕。
君は此処に居る。僕の傍に。永遠に。
美しい櫻花。
愛しい君。
僕は痛い程に幸せで満たされて。
君の手を握り締め、冷え切った指先に口付ける。
僕の愛する君の櫻。
ずっと君を感じていたいから。
ずっと君の傍に居たいから。
僕等は此処に居る。
君の為に。
君を愛する僕の為に。
今年の櫻花は、何時にも増して美しい。
薄色の花弁に血の赫が映える。
もう二度と、僕はこの樹から離れない。
ずっと此処に居るよ。
何故なら…。
この櫻の樹の下には、『・・』が眠っているのだから。
―― Das Ende. ――