宙の彼方を夢見て

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 何時からだろう?私が白昼夢を見るようになったのは。不意に現実を離れ、宙に飛翔する事がある。
 ソレは何時も、突然にやって来る。幻覚だとは分かっているけれど。その余りにリアルな光景に、私は我を忘れてしまうのだ。

 ―― 例えば其処は月で。常に地球に向いている側に私は居て。淡い蒼光を眺めている。
 ―― 例えば其処は水星で。太陽に一番近い惑星に私は居て。眩い陽光を一身に浴びている。
 ―― 例えば星々の海に抱かれて。昏い宙を漂う私が居て。数多の光点を見据えている。
 誰も居ない宙で、私は何時も一人。でも淋しくはない。眼前に広がる世界が、私を夢中にさせるから。

 私は別に、精神を病んでいる訳ではないと思う。自分を『選ばれた戦士』だと思い込む、そんな思春期特有の心の病があるのは知っているけれど。私にはそんな積もりはない。自分に何か特別な処があるとも思っていない。
 ただ、私が宙に憧れているから。星々の輝きに魅せられているから。それが私にそんな幻覚が見せる。それだけの事だと思うのだ。
 白昼夢は日毎にその存在感を増していく。ソレは時として、此方が現実と私に思い込ませる程に。幻影に捉われる時間が徐々に長くなっている。
 何時の日か、遂に白昼夢に取り込まれて、現実に戻る事が出来なくなるかも知れない。幻想の中で、星々に抱かれて暮らす事になるのかも知れない。そんな風に思う事すらある。
 ソレはソレで、構わない気がする。こんなにも美しい光景を手に入れられるのなら。こんなにも果てない拡がりを手に入れられるのなら。私には素敵な事に思えるから。

 だけど、そんな日は決して訪れない。憧れは憧れの儘。私はずっと地上の重力に縫い止められた儘。宙の彼方、星々の海に飛翔する日は来ない。
 それが分かっているから。私には、夢見る事しか出来ないから。宙を仰いで、想う事しか出来ないから。
 私は白昼夢を待ち受ける。例え幻と分かっていても。星々の輝きを間近に見る、あの瞬間を待ち望む。
 何時の日か、その幻影が現実となる事を夢想しながら…。

 

―― Das Ende. ――


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