シンデレラの独白

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 舞踏会で出会った美しい姫君と、もう一度会いたい。そう思った王子様は、私の残した硝子の靴を手掛かりに、国中を捜索させたと聞かされた。私の足はとても華奢だったから。あの小さな靴を履けるのは、私本人だけだろうと信じて。
 何てお莫迦さんなのかしら。
 たまたま最初に靴を履けたのが、この私だったから良かったけれど。足の小さい女性はこの国に、私一人だけではないでしょうに。もし同じ位足の小さい娘が他にも居たら。もしその方が先に私の靴を履けていたら。どうなさるおつもりだったのかしら?
 あの時、あの硝子の靴に合わせて御自分の足を削ぎ落としたお義姉様達を、私は黙って眺めていた。自分の靴だと打ち明ける事もせずに。自ら付けた傷の痛みに耐えて靴に足を入れるお二人を、何も言わず見詰めていた。そして二人の計略が暴かれてから、徐に名乗りを上げた。それは自分の物なのだと。あの夜、王子様と共に踊ったといわれる姫君は、自分だったのだと。妖精が再びくれた美しいドレスを纏い、煌く硝子の靴を履いて。私は王子様の待つお城へと上がったの。
 お義姉様とお義母様の悔しがる事ったら。溜飲が下がるとは、正にこの事だったわ。

 けれど…見ず知らずの私に一目惚れして、その勢いだけで結婚なさっただけあって。王子様はとても惚れっぽい方だった。少し綺麗な方を見掛けると、フラフラと吸い寄せられていく。私は心配で、一時たりともあの方から目を離せやしない。
 心配なのは華やかな宴席だけではなくて。真面目に領土視察に出掛ける時もそう。あの時、みすぼらしい服を纏っていた私を平気で城に連れ帰った王子様は、市井の村娘にすら目を奪われかねない。身分卑しい娘と話しをするなとは、私自身がそうだったのだから、言える訳もない。
 全く、何てお気楽な方なのかしら。
『そしてシンデレラと王子様は、末永く幸せに暮らしました。』
 童話ではそう締め括られているけれど、そんなの嘘。出会うまでよりも、結婚してからの時間の方がずっと長いのだから。どんなに仲が良くっても、喧嘩の一つもしないではいられない。況して私達は、お互いの事を殆ど何も知らない状態で結婚してしまったのですもの。
 家柄や血筋でもなく、性格や気立てでもなく。ただ外見の美しさだけに惹かれてこの私を選んだ、そんな王子様だから。彼に厭きられない為に、私は日々努力を重ねるしかない。肌に良い温泉や化粧品、最高の仕立て職人、高価な宝飾品…。金に糸目をつけず、外側を飾り立てて。何時しか私の纏う全てが国中の貴婦人達の手本となる程に。
 庶民派を気取るのは、高貴な出自の姫君ならばそれも良いでしょう。けれどこの私には逆効果。元々が庶民の出ですもの。何の意味も持たないどころか、却って陰口の種を与えるだけの事。ならばいっそ、思いっ切り贅沢に、飛び切り豪奢に、着飾っているしかない。今の私に出来るのは、許されているのは、それだけだったから。

 どうしてこんな風になってしまったのかしら?
 私が欲しかったのは、求めていたのは、穏やかな暖かい家庭。家族が皆一緒で、愛情に包まれて。そんなごく普通の幸せだった筈なのに。
『そしてシンデレラと王子様は、末永く幸せに暮らしました。』
 その台詞が嘘にならぬ様に。身分違いの哀しい恋と、後ろ指をさされぬ様に。それだけを考えて、私は日々暮らしている。望む物全てを手に入れて、望みもしない物まで手に入れられる立場になって。今が幸せなのだと、これ以上の暮らしは望むべくもないのだと。そう自分に言い聞かせて。
 私は今も、王子様と幸せに暮らしているのよ。あの童話にある通りに、皆の想像する通りに…。

 そうでなくては、遣り切れないわ。

 

―― Das Ende. ――


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