魂魄の休息

------- -------

 己が務めを終えた魂は、あの世とこの世の狭間で、暫しの休息を得る。生と死の境界線にある其処は、現世でもなく冥土でもない。一筋の光すら射さぬ暗闇で、幾多の魂魄が集い憩う。
 現世の傷痕を癒し、浮世の汚濁を清め、あるがままの姿に立ち戻る為に。その本来の輝きを、取り戻す為に。時の流れから取り残された暗闇で、その全ての殻を脱ぎ捨てる為に。
 過去の妄執を捨て、その犯した罪を償い、互いの過ちを水に流す。それがこの休息の本来の意味。その生き様を映すが如く、その鎧う殻の厚さを示すが如く。永遠にも似た時の流れに浮遊する。
 生への執着を捨て、死への恐怖も忘れ、もう何も感じない。生前の記憶でさえ、ぼんやりとその輪郭を滲ませる。まるで磨り硝子を通して見る景色の様に。
 やがて全ての準備が整った魂魄は、境界線を越える。あるものは、溢れる光の中へ。またあるものは、更なる闇の底へ。全てはその心のままに。
 何処へ行くのか。その先に何があるのか。それを知る術は無い。

 

―― Das Ende. ――


------- -------
蒼の工房へ戻る
Home
≪Prev.  Next≫
妄想工房へ戻る