初めて物語 part1 初入国篇



 コレはもうずっと以前、俺が始めてこの連邦に移り住んだ頃の話だ。
 当時の俺は、まだ七歳になったばかり。平均寿命が三十歳のこの世界に於いて、ソレは漸く成人と認められる年齢だ。要するに、すっげぇ若くて怖いもの知らずな年齢だったって事。

 移民管理局で入国を申請した俺は、先ず別室で審査を受けさせられた。といっても係官の簡単な質問に答えるだけだが。
 性別(見りゃ分かるだろー?)・出身地・性格・人付き合いの傾向…までは何という事もないフツーの質問だった。運動が得意かどうかを問われた時は少し戸惑ったが、身体能力を知りたいのだろうと思い、取り敢えずスポーツ万能と答えておいた(笑)。更に声の大きさを問われて、思わず「聞いてりゃ分かるだろー?」とか口走りそうになっちまったぜ。でも言わなかったけど。
 しかし…恋愛スタイルと子育てのスタンスを訊かれるに至っては、流石の俺も絶句するしかない。何でソンナ事をイチイチ申告しなきゃならねぇんだよ?!…っつーか、ソレ聞いてどうするってのよ?(爆)
 それから更に幾つかの質問を受け、一通りの審査が終わり ―― ソレで一体、俺の何が分かったのか疑問だが(苦笑) ―― 漸く次の段階に移った。就職するジヴ(職業)を選ぶんだが、此処では一般市民は第一次産業にしか就けないらしい。漁業か農業か鉱業か、その三択。因みに俺が選んだのは漁業のヒシ。特に理由は無かったが、強いて言えば海が好きだからってトコかな?
 次に選ばされたのは、生涯に渡って所属するリーガ(武道)。この連邦は武門の誉れを重んじる土地柄らしい。全ての国民がラーテ(打撃技)・リグ(投げ技)・サボ(関節技)の何れかを修めなくてはならないと教えられた。投げ技にしろ関節技にしろ、相手の出方を窺わねばならないだろう。ソレは短気な自分に向いていないと判断し、俺はラーテを選ぶ事にした。
 そして遂に全ての手続きが終了した。最初の居住地が決定するのは翌朝と言われ、移民局の中に一室を与えられた。今夜は此処で泊まれという事らしい。俺はずっと背負っていた荷を下ろし、質素な寝床に横になった。明日からこの国での新しい生活が始まる。緊張と興奮で、その晩は余りよく眠れなかった…様な気がする…多分(笑)。

 漸く夜が明けて、移民局で貰った地図を頼りに、Aステイ(県)Gタウ(市)にあるKTビレジ(町)にやって来た。其処はこの国では中規模の、落ち着いた町だった。人口もソコソコで、人込みの苦手な俺には丁度良い。
 初めての土地で見る物全てが珍しく、俺は町中を探検して回った。ヤーノ商店を冷やかし、遺跡跡を見学し、約束の丘に登り、コサカの滝やコクスン浜では訓練中の人々に声援を送って。フラフラと気侭に歩き回って、最初の数日は瞬く間に過ぎた。
 日が経つにつれて、俺にも知り合いが出来た。その中の幾人かとは、友人として親しく言葉を交わす様になって。一緒に訓練をしたり、時には誘い合って釣りに出掛けたりもした。此処での暮らしにも少し慣れて、仕事と武術の鍛錬に精を出した。
 特筆すべき何かがある訳では無いが、ソレナリに穏やかで平和な暮らしって奴を楽しんでいたんだ。
 そんなある日、友人の一人から手紙が届いた。


『今までありがとう。僕は旅に出ます。』


 驚いて彼の家へ行ってみると、既に出立した後だった。
「そっか、行っちゃったのか。元気でな…。」
ソッと呟いてみる。旅の平安を祈りつつも、一抹の寂しさを覚えた。
 今思えばソレは、『別の地へ移住する』という選択肢を、初めて実体験として俺に教えてくれた出来事だった。でもその時はただ「そーゆーのもアリなのかぁ」なんて思っただけで。後に自分自身がソレを頻繁に体験する…っつーか、『移住』が自分にとって必要不可欠なモノ(笑)に変わるとは、当時の俺はまだ知る由も無かった。

 それから暫くは、目が回る程に忙しい毎日を送った。寂しさを忘れる為に、仕事に没頭 ―― っつっても日がな一日、釣糸垂らしてボーッとしてたんだけど(笑)。合間には武術の鍛錬に励んで。休みの日にはスッカリ疲れ果ててひたすら爆睡。
 誰かと親しく言葉を交わすでもなく、何処かへ遊びに出掛けるでもなく。俺は、そんな極端に付き合いの悪い男になってしまっていた。
 そしてフと気が付くと、友人の数が驚く程に減っていた。まぁ、ソレまでの自分の行動を思えば、当たり前っちゃその通りなんだが(苦笑)。それでも女性達の殆どは、俺をまだ友人と思ってくれてた。しかし同性で友人と呼べる相手は、一人もいなくなってしまっていたのだ。
―― こーゆー時、男ってツメタイよなぁ(苦笑)。
 今だったら『麗しいレディ達が居てくれれば、野郎なんてどーでも良いさ』なんて思うトコロだが。まだソコまでスレてなかった当時の俺には、かなりの大ショックだった。
「皆、ドコへ行っちまったんだよおぉぉぉっ?」
 呆然自失に陥った儘、俺はフラフラと歩き出した。何処をどう辿ったのかも分からぬ儘に、着いた所は何故か移民管理局。無意識にやって来たから、此処で何をして良いやら自分でも分からない。
 所在無げに立ち尽くす俺を、係官は『旅の初心者』だと勘違いしたらしい。親切に移住の仕方を一から細かく教えてくれた。更には何ともお節介な事に、勝手に新しい移住先を選んでくれた上、必要な手続きの殆どを俺に代わって済ませてくれやがったのだった。
 彼の言葉をボンヤリと聞き流していた俺は、イキナリ書類の束を差し出されて、漸く我に返った。何となくイキオイで受け取ってしまう。見ると地図が一枚と薄いガイドブック、そして見知らぬ住所の記載された『移住許可証』…。
「…うや?」
「其処は素敵な街ですよ。勿論、此処だって良い所ですが。」
「はぁ…?」
「お気を付けて行ってらっしゃい。」
「はぃ…?」
 狐に抓まれた様な…正にそんな気分で、俺は移民管理局を後にした。やや呆然とした儘帰宅して、素直に旅支度を整えた。

 こんな風に、俺の記念すべき初移住は、成り行き任せのナシ崩しで決まったのだった。それも、俺自身の希望とは全く無関係に(苦笑)。
―― どーせ友達もいなくなったんだし。ま、いっかー。
…なんて、至ってお気楽なノリで。俺は再び新しい地へと旅立った。

 

―― Das Nicht Ende ――


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