初めて物語 part2 初恋〜傷心篇



 今度のKW街はR県のJ市にある。係官に教えられた通り、前に居たKT町よりずっと賑やかな都会だった。人口も三桁を軽く越えており、各ジヴ・リーガとも相当の大所帯。此処で俺は新しい生活を始めた。
 最初のうちは、やっぱり物珍しくて、ビレジ中を探検して回った。基本構造は前と一緒でも、住民が多い分だけ賑わいがある。皆が気さくに話し掛けてくれるし、移住したてで一人ぼっちだった俺を訓練や釣りに誘ってくれた。そして俺は、少しずつこの街に溶け込んでいった。

 そんなある日の事。仕事が休みで特に予定も無かった俺は、ビレジ一番の大木といわれるミヨンの木を見に行った。長い年月を経たその木は、街のシンボルとして親しまれているらしい。上の方の枝からは市街が一望できると聞いて、ちょっと登ってみたくなったんだ。
 目的地に辿り着くと、辺りは恋人達で一杯だった。沢山のカップルが仲睦まじく寄り添って、楽しそうな姿を見せ付けている。そう言えば、此処を教えてくれた人が、人気のデートスポットだって言ってたっけ。
「来る場所を間違えたかなぁ…。」
 思わず溜息が漏れる。一人身の俺には、少しばかり…っつーか、かなり居心地の悪い場所だった。一人で来たのは失敗だったかも知れない。周り中を飛び交うハァト・マークに耐え切れず、俺はビレジ展望を諦めて帰る事にした。
 歩き出し掛けた処で、誰かに呼び止められた。
「初めまして、よね?貴方、最近ココに来たのかしら?」
振り返ると一人の少女が微笑んでいた。綺麗にカールした髪が肩の下で揺れている、可愛らしい娘だ。
「そうなんだ。アチコチ探検してたんだけど。ココは一人で来るべきじゃなかったみたいだね。」
そう言って苦笑してみせる。話し相手が出来てすごく嬉しかったが、それは敢えて口にしないでおいた。だって格好悪いじゃないか。
「俺はJD。よろしく。」
 そう名乗って右手を差し出す。少女は笑顔でその手を握り返してくれた。
「私はLCよ。こちらこそよろしくね。」
笑うと途端に華やかなイメージに変わる。俺は暫く彼女から目が離せないでいた。ソレは、この連邦で初めての恋が始まった瞬間だった。

 それからというもの、俺は暇を見付けてはLCを誘って遊びに出掛けた。ノーマ博物館を見学したり、約束の丘でピクニックもしたし。あのミヨンの木にも、今度は彼女と一緒に行った。もう木登りはしなかったが、LCのお陰で前回の様な居心地の悪さは味わわずに済んだ。
 会う度に俺達は少しずつ親密度を増していった。歩く時はいつも手を繋ぐ様になり、ヒソカに頃合を見計らって(笑)口付けを交わして。時折はケンカして、また仲直りして。何時しか俺は本気で彼女との結婚を考え始めていた。
 けれど、そんな甘い日々は、そう長くは続かなかった。
 この連邦に入国して日の浅かった俺は、まだ知らなかったんだ。彼女が実は、人口調整の為に連邦政府が用意した『NPC』と呼ばれるレプリカントだったという事を。あらかじめセットされたプログラムに従って、一般の住民と同じ様に生活して。時折は恋の真似事までしてみせて。けれどソレは所詮プログラムに過ぎなくて。外見は普通の人間としか見えない彼等には、感情など備わってはいなかった。
 そして俺は、その事実を嫌という程思い知らされる事になった…。

 ある日、彼女から呼び出された俺は、何も知らずウキウキと待ち合わせ場所へ向かっていた。コレはもしや、彼女の方からプロポーズか?とか勝手に浮かれて。もしも彼女が言い出しにくそうだったら、予定通り俺から言っても良いな…なんて、そんな事まで考えていた。
 けれど…そんな俺の気持ちと裏腹に、先に来ていたLCはヤケに沈んだ顔付きをしていた。珍しく暗い表情で、コチラをじっと見詰める。俺は何だか悪い予感がしてきた。
 そうして暫く黙って俺を見ていた彼女は、言いにくそうに口を開いた。
「ごめんなさい…別れたいの…。」
その言葉は余りに突然で、俺は自分の耳を疑った。正に『寝耳に水』ってヤツ。
「どうしてだよ?!俺達、今までウマくいってたじゃないか!」
「別に…理由なんてないわ。」
「だったら何故?!」
「とにかく。私達、コレで終わりにしましょう。」
 取り付く島も無い彼女の口調に、俺は呆然と立ち竦んだ。返す言葉も無く黙り込む。最後通告…そんな単語が脳裏に浮かんだ。
―― どうしてだよ?一体、俺が何をしたって言うんだ?何か、彼女の気に障る様な事をしたか?
 頭の中で疑問が溢れては渦を巻く。本気で彼女にプロポーズする気だった俺は、ショックから立ち直れないでいた。
 最後にもう一度だけ笑顔を見せて、彼女は俺に背を向けた。もう二度と振り返らず、足早に歩み去る。
 俺はただ、遠ざかるその背を見つめる事しか出来なかった…。

 それから暫くは、俺ともあろう者が ―― っつーか、俺って何様?(笑) ―― 極度の女性不審に陥った。その後も新しい出会いが無いではなかったが、少し相手から連絡が途切れると、途端に疑心暗鬼に襲われて。遂にはコチラから一方的に別れを告げた。
 まるでLCに受けた仕打ちを別の女性に反す様な。今思えばソレは、完全に八つ当たりだったと分かるんだが。その時の俺は、相手の女性の反応の一つ一つに一喜一憂する、恋愛に晩生な少年の様に振舞った。
―― その割にゃ、散々フッたりフラレたりしてた気もするが(自爆)。
 失恋の痛手が癒えるまで、俺はそんな無様な恋愛ばかりを繰り返した。その間は、仕事や武術に身が入る訳もなくて。当然ながら、ジヴもリーガも順位はソコソコ。何処までも中途半端な人生を驀進していた。
 結局俺が立ち直ったのは、生涯の伴侶となる女性と巡り会った後の事になる。つまり、ソレまでずっと落ち込んでたのよ、俺ってば(苦笑)。

 

―― Das Nicht Ende ――


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