俺が一人で旅をする様になって、もう随分と長い歳月が過ぎた。見知らぬ土地を渡り歩き、初めて出会った人々と言葉を交わして。時折は友人の住む街を訪れて旧交を温めて。昔の仲間が滞在中に、同じ街にフラッと顔出しする時もあった。俺は自由気儘な一人旅を存分に満喫していたんだ。
その当時は旅団の最盛期で、団員の数も俺の在籍当時の倍以上に膨れ上がっていた。それでもまだ新規の入団希望者が後を絶たない。かつての自由さは失いつつあったが、旅団は既に、連邦で無視出来ない一大勢力となっていたのだ。
そんな折のある年末の事。相変わらずフラフラと彷徨う俺の元に、一通の手紙が届けられた。差出人は元上司の旅団RG団長。
懐かしい顔を思い浮かべつつ、俺は封を切った。中の手紙には、特徴のある大きめの文字でこう記されていた。
『元気か、JD?
久し振りに全隊合流するんだ。良かったら君も来ないかい?
場所はジャージ村だ。皆で待ってる。
―― 団長RG
P.S.そうそう、ジャージ村へはジャージ着用(笑)で来てねん♪』
…どーするよ、オイ?
俺は思わず頭を抱えてしまった。
旅団に合流するのは結構だ。久し振りに旧友に会いたいと思ってた処だし。目的地ジャージ村にも異存はない。元々が当所無く彷徨ってるだけだから、次の行き先が何処だって別に構わん。問題はそーゆー事ぢゃなくて。
追伸の『ジャージ着用』って何だよ?仮にも貴公子様と呼ばれるこの俺が、そんな格好で表を歩けるかっつーの!(爆)
俺が苦悩する間にも、続報が舞い込んで来る。ジャージ村に集まった旅団員が全員ジャージ姿だと、他市にまで噂は広がっていた。聞くともなしに聞こえてきたソレは。俺の悩みを軽減するドコロか、更に増してくれたのだった。
「RG団長のジャージは青で、背中に白イムの刺繍だってさ。」
「滝落ち広報L氏のジャージはシブイわよ。黒地に銀で十字架と龍ですって。」
「否、やっぱり二番隊S隊長が一番だね。青地にでっかく白で『滝』の一字の縫い取りがあるんだ。その上、揃いの青マント付きだぞ!」
「…皆、ドコでそんなジャージを手に入れたのかしらねぇ?(苦笑)」
「さぁ…?」
…俺もソレを問いたい(溜息)。誰か一人くらい、団長のしょーもない思い付きを止める奴はいなかったのか?そもそも誰がそんな素っ頓狂なジャージを作成したんだよ?!
しかし『ジャージ着用』はどうやらマジだったらしい。仕方ない。諦めて俺もジャージを調達する事にした。
―― だって俺、ジャージなんて持ってねぇし。
とあるオーダーメイドの紳士服店で、俺は店主に細かく注文を付けた。どーせなら皆に負けない位、思い切りバカバカしいのにしてやろうと思ってさ(笑)。貴公子様らしく、爽やかな純白のジャージに、将官風の金モールと金ラインをあしらって。背面には色鮮やかな羽を…(ヲイ)。
そうして出来上がったソレは、ビミョーに貴公子様からズレていた。…っつーか、はっきりキッパリ、気分は宝塚歌劇団(自爆)。
出来上がったジャージを着込み、俺は人目を気にしつつジャージ村へと向かった ―― って、言っとくけど羽は背負ってないからな(苦笑)。流石にソレは止めた。あんな恥ずかしいもん、誰が付けるかっつーの!
俺がジャージ村に到着した時、其処には既に旅団が集結していた。先ずは元上司を探すべきだとは思ったが、村は人で溢れ返っている。旅団3隊が全員集合したんだから、当たり前っちゃその通りなんだが。人込みを歩き回るのは面倒臭かったので、俺は漁場に直行する事にした。取り敢えず団長は放っておいて、のんびりと趣味の釣を楽しもうと思ったのだ(ヲイ)。
しかし漁場も既に先客が居た。釣をするでもなく、海を眺めて一人静かに佇む男。その青いジャージの背には、目にも鮮やかな白イムの刺繍が…(笑)。それは紛れも無くRG団長、その人だった。流石は元上司。俺が彼を探しもせずに漁場に直行すると、ハナから踏んでいたらしい。
―― ちぇっ!読まれてるんじゃ仕方ねぇや。
俺は溜息を一つ吐き、彼に歩み寄った。気配を察して団長が振り返る。
「よぉ、JD。来てくれたんだな。」
「まぁな。」
「流石は貴公子様、派手なジャージだねぇ(笑)。」
「…アンタに言われたかねぇよ(苦笑)。」
久々の再会で、俺達は思い出話に花を咲かせた。古き良き時代、旅団がまだ全員で旅を続けていた頃の事。初めて三隊に分割した頃の、各隊の参加者募集合戦について。そして某市で出会った旧友M嬢に、二人揃ってまんまとシテヤラレタ(笑)事…。
俺達は旅団創設前からの付き合いだ。互いに話題は尽きず、時を忘れて懐かしい思い出の数々に浸っていた。
そして…フと思い付いた様に、団長が俺に問い掛ける。
「もう直ぐ今年のリーガ試合が始まる。JDも参加するんだろう?」
「その積もりだ。」
「そうか。だったら儂と当たるかも知れんな。」
「…アンタ、ラーテ所属なのか?!」
焦って訊き返す俺に、団長は笑って頷いた。その笑顔に他意は無い。純粋に元部下との手合わせを楽しみにしているのだろう。しかし俺の方はそうもいかない事情がある。出来る事なら昔馴染みの前で試合なんかしたくない。況してや対戦なんて絶対に御免だ。理由は簡単。何故なら俺は…
めっちゃくちゃ弱いんだよっ!!(自爆)
実はそうなのよ(笑)。確かに俺は、これまでに何度もリーガ試合に優勝した。しかしそれは全て過疎地だったからこそ。元々の人口が少ないから、二試合目が決勝戦だったりする事も多くて。だから対戦相手に恵まれれば、誰でも簡単に優勝できる。本当の処、俺の実力は全然大した事ないのだった。此処も過疎地だが、今は旅団全員が集結している。強者揃いの彼等を相手に、こんな中途半端な技量で太刀打ちできる筈も無い。
しかしソレを素直に元上司に告白するのは躊躇われた。実力の割に負けん気だけは強い俺は、闘う前から負けを宣言するのが悔しかったのだ。それに第一、格好悪いじゃないか。
俺は結局、彼と対戦を約してその場を離れた。
「手加減せんぞ、JD。」
「そんな必要ないさ。元上司だからって負けないぜ!」
そんな、まるで根拠の無い強がりのオマケ付きで(爆死)。例え団長が最大限に手加減してくれたって、俺が勝てる訳ねぇってのに。
そんな自業自得の苦悩を余所に、遂にリーガ試合の幕は切って落とされた。
旅団員達は余裕で勝ち進んでいく。流石に他流試合に慣れているだけのことはある。旅暮らしの彼等は、方々の土地で力自慢の地元民と渡り合っている。その実力は歴戦の勇者といえど侮れない。
…なんて呑気に構えてる場合か、俺?(汗)
もう直ぐラーテの試合が始まる。俺は沈んだ気分の儘、組み合わせ表を見に行った。初戦で土地の強者に当たれば、団長と闘わずに済む。もしそうなれば負けても言い訳が立つだろう。そんな後ろ向きな希望を抱いて、俺は掲示板を見上げた。目に入ったのは、俺の気弱さを嘲笑う様な一行目。
『ラーテリーガ・第一試合:JD対RG』
「嘘だろぉっ?!」
もう逃げられない。そんな声が脳裏に響き、俺は呆然とその場に固まっていた。対戦表はまだ先に続いていたが、俺には其処しか見えなかった…っつーか、後は関係ねぇし。試合前の下馬評は全て団長RG氏の圧倒的勝利を予想していた。旅団員は勿論、全員が大将の勝利を信じ切っている。それは俺自身も同じだった。
そして試合当日。既に勝敗を諦めた俺は、無我の境地で闘技場に赴いた。
試合開始の合図と共に、俺は無我夢中で飛び出した。必死だった。歴戦の強者の団長が相手だ。全力で闘って、せめて見苦しくない試合をしよう。考えていたのはそれだけだった。どうせ負けるにしても、見た目だけでも何とか好試合に持ち込みたい…。
―― って、全然無欲じゃねぇじゃん、俺(苦笑)。
突然の試合終了の声に、俺は漸く我に返った。気が付くと足元にRG団長が横たわっている。
なんでだろー?ぼんやりとそう思った。
「勝者、JDさん!」
「…はぃ?」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。俺の間の抜けた返事に、審判長が呆れ顔になる。まるで言い聞かせる様な口調で再び繰り返した。
「勝者はJDさん。貴方の勝ちです。」
「あ、そ…ふーん…って、えぇっ?!」
莫迦そのものの反応に場内から失笑が漏れる。審判長は『もう二度と言ってやらん』といった面持ちで、そっぽを向いてしまった。
「へえぇ。俺、団長に勝ったんだぁ♪」
俺は喜色満面で一礼し、小躍りしながら闘技場を後にした。未だ続く失笑を、その背に浴びて…。
尤も、俺が勝てたのは完全にマグレ。しかもその試合だけだった。第二試合で俺は、上司の仇討ちに燃える旅団A嬢にボコボコにされたのだ。だけど全然そんな事は気にならなかった。
「ま、コンナモンだろーなー。でも団長に勝ったから良いも〜ん♪」
などと浮かれていたから(笑)。だからその後に続く四大大会で初戦敗退しても、『今の俺の実力じゃ仕方ねぇよな』としか思わなかった。
そして年末が近付いて。旅団はそろそろ次の移住地へ向かう時期だった。俺も少ない手荷物を纏めて、新しい地へ旅立つことにした。移民管理局で申請を済ませて、ナンデ門を潜ろうとした時だった。団長とその直属の隊が姿を現したのは。
ワザワザ俺を見送りに来てくれたのかと思ったが、それだけでは無かったらしい。別れの挨拶のついでの様に、団長がリベンジを申し入れてきた。部下達の眼前で俺に負けたのが、余程悔しかったんだろう。
「四年後のラーテ杯でまた会おう。次は負けん!」
…嫌なこったぃ(笑)。大体、ラーテ杯でも初戦に団長と当たるとは限らんだろーが?初戦で対戦できなきゃ、俺はきっと二回戦には勝ち進まない…もとい、絶対に勝ち進めない自信がある(爆)。そんなに何度も奇跡は起こらねぇって。
俺は意を決して団長に答えた。
「おう、望む処だ!返り討ちにしてやるぜ!!」
俺の莫迦…(泣)。言ってからハゲシク後悔した。しかし時既に遅し。団長は男らしく笑顔で俺に右手を差し出した。
「また良い試合をしよう。」
俺は無言で頷き、その手を握るしかなかった。
団員達はその光景を笑顔で見守っている。実力伯仲する好敵手同士の、再対決を誓う握手。もしかすると傍目にはそう映っていたのかも知れない。そうであってくれれば良いと、俺は心から祈った。もう一つの願いは、心の奥底に隠して…。
―― 四年後なんか来なきゃ良いのに!
≪後日談≫
その四年後。俺は団長との約束を果たすべく、また別の村にいた。
過疎地じゃなきゃ嫌だ。そんな我儘を受け入れた団長が見付けてきた、それは選りすぐりの過疎村だった。旅人の俺達を受け入れても総勢十人に満たない、そんな寂れた小さな村。其処で俺達はラーテ杯開催を待ち受けていた…んだが(笑)。
残念ながら、俺と団長がラーテ杯で対戦する事は無かった。俺の危惧した通り、初戦はそれぞれ別の相手とだったから。しかも俺の相手たるや、数々の武術タイトルを保持する当地随一の強者で。当然ながら俺はきれいサッパリ初戦敗退した。俺達の勝敗は決する事なく終わったのだった…(爆)。
だけど…敢えてもう一つだけ、言わせてくれ。
その年のリーガ試合、ラーテリーガでは俺が優勝したんだ。それだって勿論RG団長との直接対決は無かったんだが。でも団長を倒した相手と俺が闘って、その試合に勝ったのが俺。
三段論法でいけば俺の勝ちって事じゃねぇ?(笑)