妻の様子がオカシイ。ある日突然、俺はそう思った。会話が殆ど途絶え、今まで頻繁に交わしていた交換日記は ―― まだやってたのよ、実は(笑) ―― 全く書かれなくなっていた。子供達からの言葉にさえ、答えている様子が無い。
「最近、ウチの奥さんが冷たいんだ…。」
他市にいる友人に、そう愚痴ってみた。俺よりずっと以前にこの連邦に移り住んだRFは、それまでにも豊富な経験から様々な助言をしてくれた。この連邦の特殊な事情、トラブルの回避法、恋愛や結婚について…。彼ならきっと、何か解決策を知ってるんじゃないか。俺は縋る様な気持ちで彼に打ち明けたんだ。
「冷たいって…具体的にはどんな感じ?」
そう訊かれた俺は、洗いざらいブチ撒けた。AMに話し掛けても返事が無いか、タマに答えてくれても的外れな台詞ばかりな事。交換日記(笑)に何も書いてくれない事。あんなに子煩悩だった彼女が、子供達すら放ったらかしな事…。
俺の言葉を黙って聞いていたRFは、暫く考え込んでいた。やがて何か思い当たったらしい。ハッとした表情になり、次いで俺に労る様な眼差しを向けた。
―― 何だか、イヤな予感がする…。
「君の奥さんは多分、NPCになったんだと思う。」
「NPC…?でもアレは元々、政府が用意した…。」
「基本的にはね。でも極稀に、人生半ばで連邦を去る人がいる。その人が未婚だと、早死にする事になるんだけど。既婚者の場合は、その抜け殻になった体はNPCになるんだ。そしてその儘、今まで通りの生活を続ける。」
「じゃぁ、AMは…。」
「JDには気の毒だけど…。」
LKにフラレて以来の大ショック。黙り込んだ俺を気遣って、RFが何か慰めの言葉を口にしていた様だが。俺は全く聞いちゃいなかった。何故ならその時の俺は、茫然自失PArt2(苦笑)に陥っていたんだから…。
それから暫くは、何をどうして暮らしていたのか、俺自身にもサッパリ分からない。ただ機械的に仕事に出掛け、子供達の世話をして。心ここにあらずといった状態の儘、日常生活を送っていた…んだと思う。
―― 俺がシッカリしなきゃ子供達はどうなる?
そんな風に思った頃には、もうどの位経っていただろうか。過ぎた事をクヨクヨと思い悩むのは止めて、俺は前向きに生きる事にした。自分自身と子供達の為に。
…というのは表向きの話。実は俺は、
―― こうなったら一番美人に育った娘に引き継いで、男達を泣かせてやるぅ!
とかとか、そんな不埒な事を考え付いたのだった(爆)。
そして俺は、理由はともあれ、また元気を取り戻した。悪巧みを知らないRFは、素直に俺の復活を喜んでくれた。
「また何かあったら、何時でも相談にのるよ。」
ご丁寧に、そんな台詞まで添えて。俺はRFの友情に心から感謝した。そして記念すべき最初の標的は、彼にしようと固く心に決めたのだった(ヲイ)。
それからというもの、子供達の笑顔と将来の夢を心の支えに、仕事に精を出した。男手一つで、立派に彼等を育て上げてやらなきゃ。特に娘達には、レディとして恥ずかしくない教養と躾をしてやろう。そして何時か、彼女達の一人に引継ぎをして。そんでもって、俺の受けたクルシミを他の奴等にも味わわせてやるぜ!(爆)
やがて四人の子供達全員が成人して。結局、俺の悪巧みは計画倒れに終わった。子供達と歳月を重ねる間に、クダラナイ考えを捨てた…訳では全然なくて。イザ引継ぎという段階で、自分が女の子になるのは、やっぱり抵抗があったんだ。
そんな訳で、長男のCLに引継いで、新たな人生に踏み出そうと思った…んだが。ココで俺は、また新たなトラブルに見舞われた。
子供が成人すると、両親に引継ぎ可能の連絡と共に、引き継ぐかどうかの問い合わせがある。その通達があって初めて、子供に引継ぐ事が出来た。しかし俺の場合、幾ら待っても問い合わせ自体が来なかったのだ。
この非常事態に、俺は完全なパニックに陥った。咄嗟に浮かんだ『困ったらRF』という諺 ―― 否、俺が勝手に作ったんだけど(笑) ―― の通り、取り敢えず彼に泣き付いてみた。
「息子に引継ぎ出来ないんだ。どーしたら良い?」
「う〜ん…奥さんがNPCなら、子供の性別に関わらず、全ての権利は君にある筈なんだけど。もしかして奥さん、NPCじゃなかったのかなぁ?」
―― 今更ソンナコト言われても困るんだけど。
「何とかしてくれよぅ。」
「否、オイラにもどーしよーも無いから、ソレは(汗)。」
…そりゃそーだよな(苦笑)。でも頼みの綱はRFだけだし。彼に見放されたら、どーして良いか分からないし。そんな泣き言を繰り返して、俺は彼を困らせた。
その時だった。イキナリ政府からの書簡が舞い込んだのは。慌てて開封してみると、待ち望んでいた引継ぎの通達。
「RF、スマン。たった今、連絡が来たよ。」
「そうか。良かったな、JD。」
RF…君って本当に良い奴だよなぁ。やっぱり悪巧みの標的にするのを止めて、正解だったかも知れない(笑)。
そんな風にして俺は、生まれて初めての引継ぎを無事(?)に終えた。そしてそれは、生まれ育った ―― CLが、って意味だけど ―― 故郷を離れ、見知らぬ世界へ旅立つ時が来た事を意味した。
実はかなり以前の事になるが、俺 ―― コレはJDの事(笑) ―― は旧友RGと、ある約束を交わしていたんだ。それは『引継ぎを済ませたら、彼が率いる旅団に参加する』というもので。『既婚者は移住不可』が決まりのこの国で、旅団創設当初には既に妻子持ちだった俺は、入団する事さえ出来なかった。だからいずれ引継ぎしたら入団すると、そうRG団長に約束したんだ。
そして今、俺は息子に引き継いで『第二の人生』を歩み始めた。父 ―― っつっても、ソレも俺(笑) ―― の果たせなかった夢をも引き継いで。友の待つ旅団へと、一歩を踏み出した。
…というのは嘘(ヲイ)。せめて最後の一年を家族と共に過ごしたい。そんな俺の我儘を、RG団長は快く受け入れてくれた。俺が実際に出発したのは、成人した翌年の事だった。
因みに、故郷で送った最後の一年間に、俺が何をしていたかというと。
「イムになる!」
「ミスビレジになりたい!」
かつて自分だった父親に、そんなメッセージを送っては喜んでいた(爆)。
実は子供達にコレを言われる度に、ずっと気になってたのよ。是非一度、自分でも言ってみたいなぁって。本音を言えば、それが入団を遅らせた最大の理由(笑)。
念願かなって、俺様ゴキゲン♪